先日の土曜日。
おたかと二人きりで外食した。
そのお店には
スタッフの笑顔が良かったらこの、『スマイルいいね』を渡してあげてください
と、テーブルの隅っこに水色のメッセージカードが置いてあった。
『今日、このテーブルの担当をさせていただきます、〇〇です!よろしくお願いいたします!』と、
テーブルの横にひざまづいて接客してくれた若い女性のホールスタッフ。
あ~。どおりで。。
たしかに
すばらしい笑顔。
でも、
なんとなく。ほんとうに、なんとなくだけど。。。。
その『笑顔』に対して、素直に『いいね』と思えない自分がいた。
ワタシの仕事は、人間相手。
しかも産みの苦しみの向こうにある、素敵な出発を迎えることができるよう
出産のお手伝いする仕事だ。
だから、産婦さんや家族の方と係わらせていただくときは、
できるだけ、
優しい笑顔で。優しい態度で。親しみのある対応を心がけているし、それが大切だとおもっている。
どんなに、
嫌なことがあっても。体調がわるくても。
ユニホームに着替えて、LDRのドアをノックするときは深呼吸をして気分を切り替えて
『笑顔』を心がけている。
数年前だったか。。。
こんなことがあった。
分娩進行にとても時間がかかっているお産中の方を受け持った。
陣痛に苦しむ産婦さん。
苦しむ産婦さんに付き添う、ご主人と産婦さんのお母さん。
いつ生まれるのか?
いつになったらこの苦しみが終わるのか?
先の見えない不安から
家族の表情も硬く、辛そうな産婦さんを励ます言葉数も少なくなっていた。
重苦しいLDR。
お産って、一朝一夕にはいかない。
ゆっくり進行しているお産が難産なわけでもない。
待てば・・。待てばいつか生まれることは解っている。
でも。
『お産は時間がかかるものです。いつか生まれます。だから痛いのは仕方ありません。だから耐えてください。痛いのは当然です』など、
今を必死で陣痛に耐える産婦さんや家族に言えやしない。
痛い時間や苦しい時間は少しでも短い方が良いに決まっている。
なんとかしてあげたい。
なんとかしなきゃ。
私は助産師として
分娩進行がすこしでも速まるように自分ができる限りのことは全てした。
それでも敵わないと感じたら
外来診療中の主治医に、他の手術前の主治医に何度も連絡をとって、できる限りの対応した。
長時間の陣痛に苦しむ産婦さん。
長時間の付き添いに疲労されているご主人や産婦さんのお母さん。
先の見えない不安。
終わりが見えない陣痛。
家族の方も不安だったと思うけど、
私だって、不安で不安でたまらなかった。
でも。
この私の不安な気持ちは見せてはいけない。
ネガティブな気持ちは、ネガティブな気持ちしか生まない。
私は
この産婦さんが耐えるLDRをノックする前に
いつものように。いや、いつも以上に大きく深呼吸をした。
もちろん、いつものように笑顔に切り替えて。
LDRの陰な空気を振り払おうと、努めて明るく声をかけた。
すると、
産婦さんのお母さんから。
『助産師さん。。。』
『助産師さんには、八重歯があるのね。毎回部屋に来られる度に笑っているから、その八重歯がとても目立つわ』
『・・・。こんなに、娘が苦しんでいるのに・・。そんなに、笑わないでください』
はっ、とした。
そんな風に言わなくたって・・・・
私だって一生懸命しているのに・・・。
私だって、不安で不安で仕方がないのに・・・
そこを何とか『笑顔』で対応しようとしているのに。。。
あまりの言われように、正直腹も立った。
でも。
私の『笑顔』は、
自分の不安な気持ちを悟られまいとするもの。
自分の助産師としての能力の限界を誤魔化すものでしかなかったのかもしれない。
この産婦さんのお母さんは
きっと、そんな偽者笑顔の私に気がついていたのだろう。
笑顔での対応は
お金のかからない、最高のサービスだ。
相手の気持ちを和ますため、気持ちよく過ごしていただくものであって、
自分自信を守るため、自分自身の評価をいただくためのものではない。
あれから何年かたった先日の土曜日。
隅っこに置かれた水色カード。
スタッフの笑顔が良かったらこの、『スマイルいいね』を渡してあげてください
いろんなことを思い出しながら。
ホールスタッフの彼女にこのカードをあげた私は
やっぱり偽者ですね。
偽善者です。
ふと、前に座るおたかを見ると。
口の横にトマトソース。唇はチーズの油でてかてか。
つい、笑ってしまった。
そうしたら、おたかもつられて笑っていた。